住宅や建物の寿命を長く保つために、絶対に欠かせない要素が「通気」です。建物が呼吸できるように空気を循環させなければ、湿気がこもり、木材の腐敗やカビの原因となるからです。
しかし、空気の通り道を作るということは、同時に「招かれざる客」の侵入経路を作ることでもあります。湿気は逃したいけれど、不快な害虫や小動物は入れたくない。この矛盾した課題を解決するために重要な役割を果たすのが、『防虫通気材』です。
適切な部材を選ばなければ、通気不良による内部結露を招いたり、シロアリやコウモリによる甚大な被害を受けたりする恐れがあります。本記事では、建物の健康を守るための防虫通気材の役割や選び方のポイント、さらに「材」だけでは防ぎきれない大開口部の対策まで、徹底解説します。

防虫通気材とは?建物の「呼吸」を妨げずに虫を防ぐ
木造住宅などで標準的に採用される「外壁通気工法」において、防虫通気材は建物の健全性を保つための生命線と言えます。なぜこの部材が不可欠なのか、その構造的な理由から紐解いていきましょう。
湿気は逃がし、害虫はブロックする仕組み
日本の住宅の多くは、壁体内の結露を防ぐために、外壁材と構造躯体(柱や断熱材)の間に空気の通り道である「通気層」を設けています。地面に近い土台水切り付近から空気を取り込み、屋根の軒天や棟から排出することで、湿気を常に外部へ逃がす仕組みです。
この換気サイクルを機能させるには、入口と出口に穴(開口部)が必要ですが、単に穴を開けただけでは虫が入り放題になってしまいます。そこで、空気の流れを止めずに、物理的に生物の侵入を阻止するフィルタの役割を果たすのが「防虫通気材」です。近年では、軒裏換気口や通気見切り材など、意匠性を損なわないスリムな形状の製品も増えています。
防ぐべきターゲット(虫・コウモリ・ネズミ)
通気口から侵入を試みるのは、小さな昆虫だけではありません。対策が不十分な場合に侵入リスクがある生物と、それによる被害は深刻です。
- 害虫(ハチ・ゴキブリ・シロアリ): 壁の内部にハチが巣を作ったり、ゴキブリの繁殖場所になったりします。特にシロアリは、通気層を経由して構造材に到達すると、建物の耐震性を揺るがす被害をもたらします。
- コウモリ: わずか1cmから2cm程度の隙間があれば侵入可能です。屋根裏や壁内に住み着かれると、大量の糞尿による天井のシミや悪臭、ダニの発生源となります。鳥獣保護法により勝手に捕獲・駆除ができないため、侵入させない対策が最優先です。
- ネズミ・小動物: 鋭い歯を持つネズミは、樹脂製の柔らかい部材であれば食い破って侵入します。断熱材を巣の材料としてボロボロにしたり、電気配線をかじって火災の原因を作ったりすることもあります。
これらが一度侵入すると、駆除には多大なコストと手間がかかります。新築時やリフォーム時に確実な防除をしておくことが、資産価値を守ることにつながります。
失敗しない防虫通気材の選び方|3つのチェックポイント
市場には数多くの防虫通気材が出回っていますが、どれを選んでも同じというわけではありません。現場で採用する部材を選ぶ際は、以下の3つの観点で比較検討することをお勧めします。
1. 「開口面積」と「防虫性能」のバランス
最も重要なのが、通気量と防虫性のトレードオフ(相反する関係)をどう解消しているかです。
網目が細かければ細かいほど、小さな虫の侵入は防げます。しかし、網目が細かすぎると、空気抵抗が増えて通気量が落ちるだけでなく、ホコリや油煙ですぐに目詰まりを起こしてしまいます。目詰まりした通気材は、壁内結露やカビの発生リスクを劇的に高めます。
逆に、通気を優先して網目を粗くすれば、当然ながら小さな虫は素通りしてしまいます。 優れた製品は、長孔(スリット)形状やハニカム構造などを採用し、十分な有効開口面積を確保しながら、虫が嫌がる形状や通り抜けにくい立体構造にするなどの工夫が凝らされています。カタログ値の「有効開口面積」だけで判断せず、実際の網目の形状やサイズを確認することが大切です。
2. 素材による耐久性の違い(樹脂・金属)
設置する場所や環境に合わせて、素材を使い分ける視点も重要です。
- 樹脂製(ABS樹脂・ポリプロピレンなど): 加工しやすく、コストパフォーマンスに優れています。また、錆びないため塩害地域でも採用しやすいメリットがあります。一方で、紫外線や温度変化による経年劣化で硬化し、割れが生じる可能性があります。直射日光が当たりにくい軒天などでの使用が一般的です。
- 金属製(ステンレス・ガルバリウム鋼板): 耐久性、耐火性、強度に優れています。特に基礎周り(土台)などの地面に近い場所は、ネズミなどの小動物による齧り(かじり)被害のリスクが高いため、金属製の採用が強く推奨されます。初期コストは高くなりますが、長期的なメンテナンス頻度を下げることができます。
3. 施工のしやすさと隙間対策
どんなに高性能な部材を用意しても、現場での施工精度が低ければ意味がありません。特に問題になりやすいのが、部材同士の「継ぎ目(ジョイント)」や、建物の「コーナー部分」です。
直線の部材をつなぎ合わせる際に隙間ができたり、コーナーの処理が甘かったりすると、そこが虫の侵入ゲートになります。 選定の際は、専用のジョイントパーツや、コーナー専用の「役物(やくもの)」がシステムとして用意されているかを確認しましょう。現場の職人の腕に依存せず、誰が施工しても隙間なく納まる設計の製品を選ぶことが、確実な防虫ラインを構築する秘訣です。
防虫通気材のメンテナンスとトラブル対策
「防虫通気材は一度取り付けたら終わり」と考えられがちですが、機能を持続させるためには定期的なチェックが必要です。

経年劣化による破損と「目詰まり」の点検
長期間使用していると、通気口にホコリが溜まったり、クモの巣が張り付いたりして、本来の通気性能が発揮できなくなることがあります。特に交通量の多い道路沿いや、畑が近い環境では土埃による目詰まりが起きやすくなります。 5年から10年に一度は、軒裏や基礎周りを目視点検し、汚れが著しい場合はブラシ等で清掃を行いましょう。また、樹脂製の場合は、経年劣化によるひび割れや脱落がないかも確認が必要です。
後付けやリフォーム時の注意点
既存の換気口から虫が入る場合、外側から市販のステンレスメッシュなどを後付けするDIY対策を行うケースがあります。しかし、キッチンの換気扇の排気口などに網目の細かすぎるネットを付けると、排気抵抗が大きくなりすぎて換気扇の故障や吸い込み不良を招くため注意が必要です。 大規模な外装リフォームを行う際は、外壁塗装のタイミングに合わせて、劣化した通気材を最新の高耐久・高防虫仕様のものへ交換(打ち替え)することを検討してください。
「材」では防ぎきれない大開口部の防虫課題
ここまで住宅や小規模建築物の「隙間」を埋める通気材について解説しましたが、工場、倉庫、店舗などの「大空間」では、全く異なるアプローチが必要になります。
物理的な「網」が抱える通気量の限界
工場や物流倉庫の搬入口、飲食店の開放的な入り口、食品工場の出荷口などでは、人やフォークリフト、搬入車両が頻繁に行き来します。このような場所に物理的な防虫ネットやビニールカーテンを設置すると、作業効率が著しく低下してしまいます。
また、大型の換気扇や給気口に細かいフィルタ(網)を設置した場合、工場のオイルミストや粉塵ですぐに目詰まりを起こします。頻繁な清掃や交換が必要になるだけでなく、必要な換気量が確保できず、工場内の室温上昇や異臭のこもりといった労働環境の悪化を招くジレンマに陥ります。
「大量の空気を通したい」「人や物の動きを止めたくない」「でも虫は絶対に入れたくない」。 この難題を解決するために、物理的な「材」を使わない選択肢として注目されているのが、空調技術を応用したシステムです。
空気の壁で遮断する「防虫エアカーテン」という選択
物理的な障害物を置かずに、気流制御技術によって虫の侵入を防ぐ「防虫エアカーテン」という解決策があります。ここでは、業務用空調機器や分煙機で実績のあるトルネックス社の製品を例に、その仕組みと効果を紹介します。
このシステムは、単に強い風を送るだけではありません。「風」と「薬剤」を融合させた、次のような特徴を持っています。

1. 「風」×「薬剤」で強力ブロック
通常のエアカーテン(風の壁)機能に加え、フマキラー社の業務用忌避剤「ウルトラベープPRO」を搭載している点が最大の特徴です。気流制御により、虫が嫌がる有効成分を開口部全体に行き渡らせます。これにより、執拗に入ろうとする虫や、小さな飛翔害虫に対しても、92.5%という極めて高い防虫率を実現しています。

1. 「風」×「薬剤」で強力ブロック
通常のエアカーテン(風の壁)機能に加え、フマキラー社の業務用忌避剤「ウルトラベープPRO」を搭載している点が最大の特徴です。気流制御により、虫が嫌がる有効成分を開口部全体に行き渡らせます。これにより、執拗に入ろうとする虫や、小さな飛翔害虫に対しても、92.5%という極めて高い防虫率を実現しています。
2. 通気を確保し、目詰まりの手間も削減
物理的なフィルタや網ではないため、どれだけ強力に防虫しても空気の流れを止めることはありません。 ネットの清掃や交換といったメンテナンスの手間から解放されるだけでなく、人やフォークリフトもノンストップで通過できるため、作業効率を落とさずに開放的な空間を維持できます。実際に、食品工場の搬入口や、飲食店の出入口など、開放と衛生の両立が求められる現場で数多く導入されています。
3. 発生源まで抑え込む「忌避エリア」
この製品の画期的な点は、開口部(入り口)を守るだけでなく、エアカーテンを中心に半径3メートルの範囲に忌避成分を拡散させることです。 これにより、建物の入り口周辺にある側溝や水たまり、植え込みといった「虫の発生源」にまで成分が行き渡ります。結果として、虫の産卵を防ぎ、シーズンを重ねるごとに建物周辺の虫の総数を減らす「忌避エリア」を作り出すことができます。

4. 安全性と導入のしやすさ
使用されている薬剤(ピレスロイド系メトフルトリン)は無煙・無臭です。煙やニオイが出ないため、お客様が出入りする店舗や、食材を扱う工場でも安心して使用できます。また、この成分は哺乳類の体内に入っても分解・排出される性質を持っているため、従業員の健康面でも安全性が高いのが特徴です。 ランニングコストも低く抑えられており、24時間連続運転した場合でも電気代は1日あたり約20円程度と経済的です。
防虫エアカーテンの導入事例
鹿児島県南さつま市の調剤薬局では、夜間に店舗の明かりへ集まる虫の侵入に悩まされていました。医療機関として、また調剤業務を行う場として高度な衛生管理が求められる中、網戸設置等の対策に加え、防虫効果を兼ね備えたトルネックスの防虫エアカーテン(ACFJ909)を導入。導入後は冬場でも虫の侵入が解消されるなど、確かな効果を実感されており、より安全で清潔な調剤環境の維持に役立てられています。

まとめ
建物の寿命を延ばし、快適な室内環境を維持するためには「通気」が不可欠ですが、そこは同時に害虫の侵入経路でもあります。
住宅の基礎や軒裏といった小さな隙間には、耐久性と通気バランスを考慮した適切な「防虫通気材」を選定し、隙間のない施工を行うことが基本です。ここでは、樹脂や金属といった素材の特性を理解し、定期的な点検を行うことが長持ちの秘訣となります。
一方で、工場や店舗の出入り口のような、物理的な材で塞ぐことができない大きな開口部には、「防虫エアカーテン」のような高度な気流技術が有効な解決策となります。物理的な壁を作らずに、空気と薬剤の力で見えないバリアを構築することで、衛生管理と作業効率を高いレベルで両立させることが可能です。
設置場所や用途に合わせて、「物理的な材」と「空気の壁」を賢く使い分け、通気と防虫を両立させた、清潔で安心できる環境を構築しましょう。
